【SPコラム⑪ 】産後うつ

昨年からコロナウイルス感染禍の影響で、妊婦さんには大きな負担と不安が生じています。
産科では、普段なら分娩時期の近い妊婦さんたちを集めて、出産、育児に向けての母親学級や両親学級が開催されているのですが、現在は休講になっているところがほとんどです。
定期的に通院する妊婦検診も感染のリスクを高める原因となってしまい、妊婦さんにとっては不安だらけです。
さらに、里帰り出産を規制しているクリニックも多く、前もってPCR検査を受けるなどしていないと出産を受け入れてもらえない状況です。
こんな環境では、いくら健康な状態であっても妊娠中のちょっとしたトラブルや出産に対して不安が募るばかりです。いくつかの研究所の調査では、例年に比べて妊婦さんのメンタル障害が増えているという報告があります。

もともと、妊娠や出産で変動する女性ホルモンとメンタルの変化には大きな関係があると言われています。そして、驚くことに、魚介類の消費量と産後うつは逆相関、「魚介類を食べないほど、産後うつになるリスクが高まる」とも報告されています。
この原因としては、妊娠後期から母体が胎児に必須脂肪酸であるDHAを大量に供給するのですが、母親自身が食事から摂取するDHAが少ないと、脳や肝臓に蓄えていたDHAまでも切り崩して胎児に与えている可能性が考えられています。
厚生労働省は、大型魚類に含まれるメチル水銀の胎児への悪影響を避けるため、魚介類の摂取を制限するように妊婦さんへ注意喚起しています。しかし、魚介類からは良質なタンパク質やEPA、DHAを効率よく摂取できることから、魚介類を食べないで生じるリスクよりも、オメガ3系脂肪酸を摂取して得られるベネフィットの方がはるかに大きいととらえ、問題ない種類の魚介類を積極的に摂りたいものです。


◆あぶら博士プロフィール(詳しくはこちら

*守口 先生(薬学博士)

麻布大学 生命・環境科学部 教授
日本脂質栄養学会 理事長

 

 

 

 

 

 

*原馬 明子 先生

麻布大学 生命・環境科学部 特任准教授

 

 

 


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【SPコラム⑩ 】新生児への供給・授乳

赤ちゃんは、胎児期にはお母さんから胎盤を介して、出生後は母乳やミルクから栄養をもらいます。この時期の脂質に関しては、オメガ3系脂肪酸のDHAとオメガ6系脂肪酸のアラキドン酸が選択的に赤ちゃんに供給されることが分かっています。

今まで、アラキドン酸は、免疫や炎症に関係する生理活性物質(エイコサノイド)が産生され、体内で過剰になるとアレルギーを亢進させる原因になるため、加工食品などに含まれる隠れ油脂のオメガ6系脂肪酸を控えるように紹介してきました。
しかし、アラキドン酸を含まない人工乳でマウスを育てると、体重の伸びが悪く小さいマウスに育ちます。
ちなみに、DHAを含まない人工乳だと脳機能が低下し、落ち着きのないマウスに育ちます。
胎児から乳幼児までの身体が急速に大きく成長・発達する時期は、脳への脂肪酸の取り込む効率が最も良い時期なので、お母さんは赤ちゃんへDHAやアラキドン酸をどんどん供給してあげなくてはなりません。どちらも体内では作れない必須脂肪酸なので、お母さんは意識して食事からとらなければいけませんね。
アラキドン酸は肉類や卵、魚介類など、動物性食品に多く含まれています。妊娠中は、食中毒や水銀などの問題からお魚を避けがちになりますが、魚介類の缶詰や干物、えごま油やアマニ油などをうまく取り入れて、オメガ3系脂肪酸の摂取を心がけてください。
お母さんの食事だけでは赤ちゃんへの供給量が足りない場合、お母さんの臓器からこれまで貯めていたDHAやアラキドン酸が奪い取られてしまうので、産後うつの予防のためにも毎日の食事による栄養管理は重要です。

 


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*守口 先生(薬学博士)

麻布大学 生命・環境科学部 教授
日本脂質栄養学会 理事長

 

 

 

 

 

*原馬 明子 先生

麻布大学 生命・環境科学部 特任准教授

 

 

 

 


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【SPコラム⑨ 】生殖期、周産期への影響

最近、私たちは生殖期や周産期のライフステージ期間においてのオメガ3系脂肪酸の重要性に着目して研究を進めています。

「生殖期」や「周産期」はあまり聞きなれない言葉かもしれませんが、妊活、妊娠、出産、授乳などの期間のことを指し、次世代の子どもを育むための大きなイベントが続く時期になります。

オメガ3系脂肪酸は脳機能を正常に保つために必要であることをお話しましたが、実は、生殖や繁殖にも重要な役割を果たしています。
例えば、精子は頭部や尾部を左右に揺らして前に進みますが、この鞭毛のしなやかさはDHAの柔軟性が関係しています。体内のオメガ3系脂肪酸が少なくなると生殖器官のDHAも低下し、男性側は運動性の低い精子が増え、卵子に到達しにくくなることが考えられます。
また、女性側では、卵子に精子が到達しても卵膜が硬く受精が困難になることが予想されます。
めでたく着床、妊娠した後は、母体は胎盤や母乳を介して胎児に栄養を与えます。妊娠後期から胎児の脳が形成され、生後3歳ころまで大きく発達しますが、この時期に母体から十分なDHAがもらえないと脳機能の発達に大きな影響を与えます。母体は、胎児や新生児の分までオメガ3系脂肪酸を摂っておかないと自身が持っているDHAが低下し、さらに出産によるホルモンバランスの大きな変動が加わると、産後うつなどのメンタルに大きく影響することがあります。

20~40代はバランスの偏った食事や睡眠不足が続いても、すぐに目に見えるような身体の不調が出ることは少ないものです。しかし、妊娠、出産を考え、妊活をしようと思われている方や、これらのイベントがいつ起こってもいいような年齢層の方は、普段以上の摂取を心がけ体内のオメガ3系脂肪酸レベルをマックスにしておきたいものですね。


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*守口 先生(薬学博士)

麻布大学 生命・環境科学部 教授
日本脂質栄養学会 理事長

*原馬 明子 先生

麻布大学 生命・環境科学部 特任准教授


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