【SPコラム⑭】子どもの栄養

赤ちゃんは、お母さんのお腹の中にいる胎児の頃は胎盤を通して、誕生後は母乳やミルクから栄養をもらいます。また、離乳後の食事も母親や周りから与えられたものを食べるので、自分で食べものを選んで食べるまでの栄養状態は、食育を含む食環境に大きく影響されます。

受精から2歳の誕生日までの1000日間(胎児期から乳幼児期)は成長・発達に重要な期間で、「人生最初の1000日間の栄養状態が、その子の残りの人生を左右する」とも言われています。この時期にもらうエネルギーが少なかったり、いくつかの栄養素が少なすぎたり、または多すぎたりすると、身体の成長や脳機能の発達が遅れて、のちに栄養状態が改善されたとしても身体の成長は追いつかず、将来的には成績不良や肥満、糖尿病、心臓病などの慢性疾患のリスクを高めることがわかってきています。

脳は胎児の頃から急速に成長し始めます。 脳細胞は、妊娠4週目で約1万個、24週目までには約100億個に増加し、出生時の新生児脳は成人脳の4分の1の大きさに、3歳までには約80%、5歳までには約90%にまで大きくなるといわれています。最初の1000日間に必要な栄養素は、葉酸、鉄、亜鉛、ヨウ素、ならびにタンパク質と脂肪酸(DHAとアラキドン酸)があり、特に脳の発達にはDHAとアラキドン酸は欠かせません。アラキドン酸は肉類や卵、魚介類など動物性食品に多く含まれています。発育中の赤ちゃんにとって母親の食事が唯一の栄養源であるため、母親の食事バランスや栄養状態がとても重要です。女性は妊娠前からの体作りの一つとして、赤ちゃんの発育に必須の栄養素をしっかり体内に貯め込めるような食事管理が必要です。日本では葉酸の摂取は強く推奨されていますが、その他の栄養素はどうでしょう? 脂質(脂肪酸)に関してはさほど情報がないのが現状ではないでしょうか。

日本では戦後の経済成長にともない平均身長が伸び、発育不良の割合が急激に低下しました。 しかし、最近では、低体重のまま生まれてくる赤ちゃんの多いことが問題になっています。2500g未満の低出生体重児の割合が先進国の中で日本は最も多く、女児では10%を超えています。これは、若い女性が極端なダイエット志向によって妊娠前に栄養不良に陥っていること、妊娠中の行き過ぎた体重コントロール(「小さく生んで大きく育てる」などと言った誤ったメッセージ)などが影響していると考えられます。日本の子どもたちの「人生最初の1000日間」の状況は、先進国の中ではバランスが崩れたかなり悪い状態にあるのかもしれません. 子どもの栄養を整えるためには、まずは母親となる女性の食事や栄養状態を見直す必要がありそうです。


◆あぶら博士プロフィール(詳しくはこちら

*守口 先生(薬学博士)

麻布大学 生命・環境科学部 教授
日本脂質栄養学会 理事長

*原馬 明子 先生

麻布大学 生命・環境科学部 特任准教授


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【SPコラム⑬】オメガ3系脂肪酸の摂り方の注意点

ライフステージごとのオメガ3系脂肪酸の役割について、いくつかお話してきました。
では、普段の食生活の中で、私たちはどのようなことに注意して、アブラをどれくらい摂ればよいでしょうか?

オメガ3系脂肪酸であるEPAやDHAを最も効率良く摂取できるのは魚介類からです。魚食が苦手だったり、甲殻類にアレルギーのある方はえごま油やアマニ油などのα-リノレン酸を多く含む植物油からの摂取をおすすめします。

厚生労働省が発表している食事摂取基準によれば、1日の脂質摂取量の目安は、男女差、年齢差、行動性の差はありますが、概ね50~70gです。
オメガ3系脂肪酸は身体には必要な油ではありますが、カロリーは他の油脂と同じ9キロカロリーなので、脂質全体の摂り過ぎにならないよう、また、過剰摂取になりやすい種類の油を控えることも忘れないでください。
控える油の第一候補はオメガ6系脂肪酸です。オメガ6系脂肪酸はオメガ3系脂肪酸と相反する役割を持ち、加工食品に汎用されています。理想の摂取バランスは、オメガ3系脂肪酸「1」に対して、オメガ6系脂肪酸が「2~4」の1:2~4と言われています。

食生活の中で、料理などに使う「見える油」は、摂取する油の20%程度と言われ、残りの80%は「見えない油」です。まずは目に見えない加工食品中の隠れ油に注意しましょう。
買い物では、商品の食品表示に記載されている原材料名を確認してください。「植物油」は、全てオメガ6系脂肪酸を含む油と考えてよいでしょう。予想以上に「植物油」が使われていることに驚くと思います。

まずは、毎日1回の魚食、または最低小さじ1杯のえごま油やアマニ油を目標に、食習慣を見直していきましょう。

また、プレコンセプションケア期間(妊娠に向けての身体作り期間)や妊娠・授乳中の方は、ぜひ普段よりも多くオメガ3系脂肪酸を摂っていただきたいですね。注意する点は、妊娠中は食中毒の予防のために、生で魚介類を食すのは控えた方が良いですし、マグロなどの大型魚や深海魚は、食物連鎖による水銀の心配も出てくるので、サンマ、イワシ、サバなど比較的小型の魚がおすすめです。


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【SPコラム⑫ 】妊娠・不妊

日本の2020年の出生数は84万人と過去最低を更新し、5年連続で100万人を割っています。
また、1人の女性が生涯に産む子どもの数にあたる合計特殊出生率は1.34と、これも5年連続で前年を下回っていることがわかりました。
これらには、女性の社会進出による晩産化や結婚をしない人の増加、また、出産適齢期とされる女性の人口そのものが減少していることも大きく影響しているようです。第1子出産時の母親の平均年齢は30.7歳と年々高齢化し、第2子、第3子を望む人は少なく、2人目以降は年齢による不妊治療を受ける人も多くなっています。

日本では、6組に1組が不妊に悩んでいると言われています。以前は、不妊の原因は女性側にあると思われていましたが、実際のところ、女性側は6割、男性側が3割で、それぞれの50%は原因不明であるといわれています。
現在のところ、女性の卵巣の老化を遅らせたり、卵子の質を改善する有効な方法はなく、年齢を重ねるにしたがって自然妊娠や生殖補助医療(ART)による出産率は低くなります。
しかし、実験動物では、オメガ3系脂肪酸(DHA)が豊富な餌で飼育した雌マウスの生殖機能は高齢期まで維持され、卵子の質を改善させることが示されています。
逆に、オメガ6系脂肪酸が豊富な餌で飼育した雌マウスは高齢期の妊娠率が非常に低くなり、短期間のオメガ6系脂肪酸摂取でも卵子の質が明らかに低下することが分かっています。
雄マウスの場合も、オメガ3系脂肪酸が低下すると精子の運動性が悪くなり、受精率が低下することが確認されています。海外の臨床試験では、ARTを受けている女性の血液オメガ3系脂肪酸が高いほど、妊娠や無事に出産する割合が高くなったという報告もあります。

これらのことを考慮すると、日本ではまだあまり浸透していませんが、妊活の一つとして女性も男性も妊娠に向けての身体作り(プレコンセプション)が重要となってきます。
その一つに、オメガ3系脂肪酸の積極的な摂取とオメガ6系脂肪酸の過剰摂取を控えることは、晩婚化した夫婦の妊娠、出産、また不妊治療の効果を得るためには、効果的かつ実用的な方法だと思われます。

 


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